歯みがきを、こわいものから、
たのしいものへ。
歯科医院の待合室で、子どもが遊ぶ
1プレイ60秒のゲームです。
青いハブラシで虫歯菌をタップして、スコアとランクが出ます。
子ども(6歳)
夜8時。逃げる、泣く、口を閉じる。去年、歯を削られたときのあの音を、まだ覚えている。だから「歯医者」と聞くだけで足がすくむ。
学校でもらった「歯医者へ行きましょう」の紙は、こわいから親に渡さなかった。
保護者
終わるころには、親も子もぐったりしている。「もう今日はいいか」が積み重なる。
学校からの受診のおすすめは、冷蔵庫に貼ったまま2か月。仕事を半日休んで、泣く子を連れて行く。想像するだけで足が重い。
歯科医院
小さな子の治療は、大人の何倍も手がかかる。なだめて、押さえて、それでも終わらない。
「3か月後にまた来てね」と伝える。次に会うのは2年後、虫歯が増えた状態で。はがきは出している。でも、届いていない。
「子供が歯科治療を怖がるので連れて行けません」
学校の保健室から寄せられた報告(鹿児島県・公立中学校)
全国保険医団体連合会「2025年学校健診後治療調査」より
この25年で、子どもの虫歯そのものは激減しました。6〜8歳で虫歯(乳歯)を経験した子の割合は、80.6%から23.6%へ。フッ素も、歯みがきの習慣も、確実に広がっています。
ところが同じ時期に、学校の歯科健診で「歯医者へ行きなさい」と言われて、行かなかった子の割合は増え続けています。
虫歯は減っているのに、行かない子は増えている
青=厚生労働省「歯科疾患実態調査」(1999・2005・2011・2016・2022・2024年)/赤=全国保険医団体連合会「学校健診後治療調査」(2018・2020・2025年)。2つは別々の調査で、対象も方法も異なります。同じ土俵の比較ではなく、向きが逆であることを示した図です。
2018年 57.0% → 2020年 62.3% → 2025年 66.8%。3人に2人です。しかも高校生では85.0%まで上がります。年齢が上がるほど、足が遠のいていきます。
調査では、養護教諭(保健室の先生)が理由を答えています。1位は、お金ではありませんでした。
未受診の要因(複数回答・回答校の割合)
全国保険医団体連合会「2025年学校健診後治療調査」より。「経済的困難」は6番目です。
子どもの医療費は、多くの自治体で無料になりました。調査報告も、受診そのものの経済的負担は減っているのに状況が改善していない、と書いています。
つまり、お金を配るだけでは解けない。残っているのは、気持ちと習慣の問題です。こわい。面倒くさい。そこまでのことだと思っていない。
そして、全体が良くなるほど、取り残された子は目立たなくなります。虫歯が10本以上あるような「口腔崩壊」の子がいる学校は、22.9%(前回29.8%)。減ってはいるけれど、いなくなってはいません。
14:50 ─ 待合室
名前を呼ばれるのを待っている。手のひらに汗。となりで親がスマホを見ている。
14:52 ─ 画面をわたされる
画面に白い歯のヒーローがいる。「まかせて!ボクがいるよ!」。青いハブラシで、虫歯菌をタップしていく。倒すたびに音が鳴る。制限時間は60秒。
14:53 ─ 結果発表
スコアが出る。ランクはA。「あー、おしい。次はSとる」。もう1回、と言う。
14:55 ─ 名前を呼ばれる
さっきまでの汗が、なくなっている。ちょっと得意な顔で診療室に入っていく。
15:20 ─ 帰りぎわ
「次いつ来る?」に、子どものほうが先に答える。
変えているのは、たった1つです。
歯医者に来て最初に手が触れるものを、
恐怖ではなく、遊びにすること。
「ティースくんみたいにやっつけよう」。この一言が、毎晩のけんかを1回分だけ減らします。ハブラシが、押さえつけられる道具から、自分の武器に変わるからです。
歯みがきを増やすのではなく、歯みがきの意味を入れ替える。それだけをやります。
三方よしの関係
3者のうち誰か1人でも損をすると、この輪は止まります。
100〜300の医院で使われたとして、1年間に「歯医者、思ったよりよかった」と思って帰る子どもが、数万人。
そのうち何人かが、次の予約を守る。そのうち何人かが、大人になっても歯医者に通い続ける。できるのは、たぶんそれくらいです。
厚生労働省「令和6年歯科疾患実態調査」。日本の大人の口の中は、確実に良くなってきています。
この流れは、フッ素や定期検診が広がった結果です。すでに動いている大きな流れがある。ティースくんがやろうとしているのは、その流れにいま乗り遅れている子を、1人でも多く乗せることだけです。
新しい潮流をつくる話ではありません。うまくいっている仕組みの、入口の一段目を低くする話です。
反応のデータはゼロです。これが今いちばん弱いところです。
アクセスの計測を入れないまま公開してしまいました。あとから遡って数えることはできません。すぐに入れます。
ポケモンもライオンも出しています。家庭でみがく習慣をつけるためのもので、この企画(医院に来た子の体験と、次の予約を結ぶこと)とは目的が違います。それでも「子ども・歯・ゲーム」という棚に大手が先にいるのは事実です。
子どもが定期検診にまた来てくれている割合について、全国をまとめた公表統計は見つけられませんでした。だから「今より良くなる」と言うための土台が、まだありません。
企画を判断するための物差しを、こちらで持っています。この企画は、いま手元にある他の企画より下でした。事業として続けられるかを見る条件が4つあり、通っているのは1つだけです。
ただし、通っていない理由は2種類あります。「これから確かめれば埋まるもの」と、「確かめても変わらない構造のもの」です。前者はこれから始める12週間で埋まります。後者(大手が同じ棚にいること)は埋まりません。それを分かったうえで進めるかどうかを、いま決めようとしています。
子どもからも、保護者からも、1円も受け取りません。
ゲームの記録は、遊んだその端末の中だけに残ります。名前や次回の予約日を書き込むのは医院の中の作業で、こちらには届きません。診療にかかわる情報を預からないのは、最初から決めている線引きです。
こちらで仕入れて配ることはしません。ものを抱え込まないやり方にしています。
いくらで売るかは、「本当に困っている人がいるか」を確かめ終えてから決めます。順番を逆にすると、確かめる前に数字だけが独り歩きします。
お金と情報の流れ
はじまりは、ひとつの言葉でした。
「歯医者にきた子供にやってもらって、Aランクだったら歯ブラシプレゼントとかしてみるのはどう?」
いい案だと思いました。ただ、そのままだと困ることが2つ。ひとつは、うまい子だけがもらえると、手先が不器用な子ほど手ぶらで帰ること。歯みがきが苦手な子ほどごほうびが遠くなり、いちばん来てほしい子が、いちばん報われません。もうひとつは、成績で品物を配り分けると、景品のルールにひっかかるおそれがあること。
配るものを平らにして、伸びる軸を別に立てる
そこで、こう変えました。
「賞品」ではなく、みがき方をおぼえるための道具として渡します。
名前入りのカード、院内の掲示、続けた回数の記録。持ち物ではなく、認められた記憶を返します。
うまさでは決めません。決めるのは下の3つ。いちばん大きいのが3つめで、称号は上手な子ではなく通い続けた子が上がります。
ランクの基準
友人がくれた「がんばったらごほうび」という発想は、そのまま生きています。変えたのは、何をがんばりと呼ぶかだけです。
正直に書きます。歯科の人脈は、まったくありません。知り合いの歯医者さんも、業界のつてもゼロです。だから、これから作りにいきます。調べたところ、道は6つありました。
出会い方の地図
1 かかりつけの歯医者さん
自分と家族が通っている医院。紹介のいらない唯一の入口で、ここが1軒目です。
2 予防に力を入れている医院の名簿
「予防歯科」を掲げる医院の団体が、会員の一覧を公開しています。定期検診に本気の医院が名指しで並ぶ。ここを主軸にします。
3 歯科衛生士さん
子どもに歯みがきを教えているのはこの人たち。売り込まず「嫌がる子に、どうしていますか」と聞くところから。
4 展示会と勉強会
歯科の展示会は数千人規模で、そのほとんどが土日開催。平日は本業があるので、対面で会える貴重な場です。
5・6 既存の事業者と、専門メディア
どちらも大きな入口ですが、いまは使いません。前者は組める相手であると同時に、同じことを自分でやれる立場でもあるから。後者は「一度に多くへ知らせる」場だからです。
12週の帯
新しい事業は、6つの段を下から順に上がります。いま立っているのは、下から3段目の入口です。
6つの段と、現在地
進む印と、やめる印
「数字で言える」は、割合の高い低いを問いません。自分の医院の数字を見ているかどうかだけを見ます。
無料でも試してもらえなければ、そこでやめます。ただで試されないものが、お金を取って売れることはありません。
それでも、健診の紙が冷蔵庫に貼られたまま2か月、という光景は、まだそこにあります。
3人に2人が、行っていません。
まかせて!ボクがいるよ!
ティースくん
歯みがきを、こわいものから、たのしいものへ。
ティースくん提供側